第9週 MOSの動作特性 ―― カーブで見る

電界効果トランジスタ/FET(Field-Effect Transistor)の電流 Id が、ゲート電圧 Vgs とドレイン電圧 Vds でどう決まるか。スライダーを動かして「形」をつかんでから、最後に式へ。

① しきい値 Vth を超えると、電流が立ち上がる

ドレイン電圧 Vds は十分かけた状態で、ゲート電圧 Vgs だけを動かします。Vgs が しきい値 Vth ≈ 0.5V を超えるまで電流はゼロ。超えた瞬間から流れ始めます。

しきい値 Vth=0.5V Id(流れる電流)

ゲート電圧を動かす

蛇口のたとえ:Vgs は蛇口の開き。少し回しただけ(Vth未満)では水は出ず、あるラインを超えると一気に出始めます。
Vth は「チャネル(電子の通り道)ができ始める電圧」。ロジック用MOSでは約0.5V。用途で幅があり、パワーMOSでは数Vのこともあります。
② Vds を上げると、3つの領域を順にたどる

ゲートを開いた状態(Vgs 固定)で、ドレイン電圧 Vds を上げていきます。電流は 線形領域(じわじわ増える)→ ピンチオフ点飽和領域(ほぼ一定)と変化します。

線形領域 ピンチオフ点 飽和領域

ドレイン電圧を動かす

ホースのたとえ:蛇口(Vgs)を一定にして、ホースの先(Vds)を開いていくイメージ。最初は出る量が増えますが、ある所から先は開いても出る量がほぼ変わりません(=飽和)。
ピンチオフは Vds = Vgs − Vth で起こります。ドレイン側でチャネルが締まり、それ以上 Vds を上げても電流は頭打ちになります。
③ Vgs と Vds の両方を動かす ―― 特性ファミリー

電流が流れるには 両方必要です。Vgs=チャネルを作る(蛇口)/Vds=流す力(水圧)。Vgs を上げると飽和カーブの高さが上がり、何本ものカーブが集まって 特性ファミリー曲線群 になります。高さが Vgs に対して急に伸びるのが、式の (Vgs−Vth)² です。

ピンチオフ境界(飽和の入口) 選択中のカーブ

2軸スライダー

薄いカーブは Vgs を 0.5V おきに置いた「特性ファミリー」。あなたが選んだ Vgs のカーブだけ青く濃く表示されます。動作点(●)はいま流れている電流の位置です。
(Vgs−Vth)² を体感:Vgs を 1.0→2.0V と倍にすると、しきい超え分は 0.5→1.5V と3倍。でも飽和の高さは 約9倍に跳ね上がります(3の2乗)。これが「二乗で効く」ということ。
④ 飽和電流の式 ―― 記号の意味を言葉と図で

飽和領域でのドレイン電流は、次の式で決まります。形を見てきたあとなら、こわくありません。

Id = ½ μ Cox (W/L) (Vgs − Vth)2

「飽和電流は Vgs で決まる」――これがいちばん大事な関係です。

μ
移動度(電子の動きやすさ)
通り道のすべりやすさ。大きいほど電子がスイスイ動く。
Cox
酸化膜容量(ゲートの効きやすさ)
ゲートが電子をどれだけ強く引き寄せられるか。酸化膜が薄いほど効く。
W/L
寸法比(通り道の太さ÷長さ)
通り道が太く(W大)短い(L小)ほど、たくさん流せる。
Vgs − Vth
しきい値を超えた分(オーバードライブ)
蛇口をしきい値より「どれだけ余計に開いたか」。2乗で効くのがポイント。
μ・Cox・W/L は、その素子で決まってしまう「設計の値」。授業中に動かせるのは Vgs です。だから「飽和電流は Vgs で決まる」と覚えればOK。式変形は深追いしません。
合格ライン:式を完璧に変形できなくても大丈夫。3つの領域(線形→ピンチオフ→飽和)の意味カーブの形、そして 「飽和電流は Vgs で決まり、(Vgs−Vth) が2乗で効く」 ――これがわかれば合格です。
得意な人向け(発展・低配点):飽和領域でも Vds をさらに上げると電流がほんの少し増えます(チャネル長変調・Early電圧)。本編では「ほぼ一定」とみなして扱います。