第9週 構造で見るピンチオフ ―― カーブの裏で何が起きているか
特性カーブの「折れ曲がり」の正体を、MOSの断面で見ます。チャネル(電子の通り道)が、ドレイン側で締まって消える瞬間が「ピンチオフ」です。
① 電流が流れるには Vgs と Vds の両方が必要
Vgs(ゲート電圧)が チャネルを作り、Vds(ドレイン電圧)が 電子を流す。どちらか一方では流れません。スライダーで両方を動かしてみてください。
半導体(基板・S/D)
酸化膜(絶縁)
ゲート(金属)
Vgs=蛇口の開き
ゲートの+電界が電子を酸化膜の下に集め、通り道(チャネル)を作る。Vth(0.5V)を超えて初めてできる。
Vds=水圧
できた通り道に電子を流す力。チャネルがあっても Vds=0 なら流れない。
Vgs だけ(Vds=0)→ 通り道はあるが流れない。Vds だけ(Vgs≦Vth)→ 通り道がないので流れない。両方そろって初めて電流が流れます。
② Vds を上げると、ドレイン側のチャネルが締まる
Vgs を一定にして Vds を上げていくと、ドレイン側のチャネルが少しずつ細くなり、ついに Vds = Vgs − Vth でちぎれて消えます。これがピンチオフ。特性カーブの「折れ曲がり」と同じ瞬間です。
なぜ締まる?ドレイン側ほどチャネルの電位が高くなり、ゲートとの差(チャネルを作る力)が小さくなります。ドレイン端でその差がゼロになった所が、通り道のちぎれる点です。
ピンチオフ点 Vds = Vgs − Vth。いまは Vgs−Vth = 1.50V。Vds がこの値に達するとドレイン端が締まります。
③ 締まった後は、Vds を上げても電流が増えない=飽和
ピンチオフの後、さらに Vds を上げても、増えた電圧は「締まったすき間」にかかるだけ。チャネルを通る電子の量はほぼ変わりません。だから電流は 頭打ち(飽和) になります。
チャネル
締まった区間(ここに余分なVdsがかかる)
Vgs=2.0V 固定(Vov=1.5V)。ピンチオフ後の区間が伸びても、電子が流れ込む量はほぼ一定。これが「飽和電流は Vgs で決まる」の構造的な理由です。
発展:厳密には締まった区間が伸びるぶん、実効的なチャネル長 L が少し短くなって電流がわずかに増えます(チャネル長変調)。本編では「ほぼ一定」とみなします。